本日は山岸凉子さんの「わたしの人形は良い人形」です。
山岸さんと言えば「日出処の天子」「アラベスク」「テレプシコーラ」など、代表作がたくさんあります。
長編大作も素晴らしいですが、ホラーや母と娘の確執とか、女性の闇に斬り込んだ短編作品もテーマが奥深いんですね。
あらすじ
高校生の陽子は引っ越しの時、母の荷物に見たこともない立派な市松人形を見つける。
人形を見た母は「失くしたと思っていたのに」と喜んだ。母によると、幼い頃隣人に貰ったはずなのだが、祖母に触らせてもらえず、それ以降は見ていない とのこと。
母から人形を譲り受けた陽子だが、引っ越しそうそう身の回りで奇妙な事が起き始めて…。
日本人形が怖い理由 稲川さんの怪談
このお話を私が特別に恐いと思うには、二つ理由があります。
一つは稲川淳二さんの怪談話です。
「やだな~怖いな~」の語りは有名な方ですね。怪談家さんといって良いのでしょうかね。
いろいろな怪談を語られていて、ご自身が体験された話、知人に聞いた話などを、怪談として語られているようです。
子供の頃聞いた、稲川さんの人形に纏わる怪談がとても怖かったんです。
人形を使った舞台の仕事に関わった人たちが、次々と不幸に見舞われるお話です。
これは有名は怪談なので、ご存じの方も多いと思います。
舞台人形ということなので、浄瑠璃人形みたいなものだと思うんですよね。山岸さんの市松人形とは違うのですが、私の中では同じ人形になってしまいました。
この稲川さんの人形の怪談は、語るだけでも不幸な人が出る、といことで、封じられたお話(本当かどうかはわかりませんが)とされていて、なおさら恐怖を引き立てました。
日本人形が怖い理由 実家の人形
もう一つは実家の日本人形です。
今も残っているのか分かりませんが、私が子供の頃、親しい人に子供が生まれると、人形を贈る風習がありました。
これはおそらく無病息災を願ってーというものではなく、雛人形や五月人形はご両親が準備されるだろうから、別の人形を贈りましょうかーという発想と思われます。
なので、男児なら「金太郎さん」女児なら「姉さん人形」が贈られることがほとんどです。お節句の時に、メインの五月人形や雛人形の脇に添えられますが、小振りなので、常に茶箪笥の上などに飾っている家庭が多かったです。
「姉さん人形(と言わない地域もあるかも)」ってご存じでしょうか。画像サイトで近いものを探してきました。
こんな感じに、芸者さんのように着飾った美しい立ち人形です。60cmくらいのガラスケースに入ってるものが多いと思います。
写真のように黒い着物だったり、歌舞伎のような華やかな衣装もあります。兜や扇、傘を持って、日本舞踊の一場面のようなポーズをとっています。
実家の姉さん人形は黒い着物を身に纏い、銀色の短冊のような下がりがついた、シンプルな簪をつけていました。
この人形は箪笥の上に飾られていました。
これね…子供にはけっこう怖いんです(稲川さんの怪談を聞く前の話)
夜、その人形が飾られている部屋で寝ていると、どうも誰かに見られている気がしてしまう…。息をひそめていると、「ちりちりちりちり…ちりちりちり…」と何かが触れあう音がする。おそるおそる音のする方を見ると、姉さん人形の簪の下がりだけが、ちりちりと揺れているんですね。
普通の戸建てなので、隙間風とか体に感じない振動とか、ただの気のせいなのだと思いますが、実家自体が他に色々「恐い」と思うことが多かったので、子供の私には普通に「日本人形の怪」だったのです。
実はこの体験は家族全員がしていて、それぞれが実家から離れるまで黙っていたので、理由はともかく気のせいではなかったようです。
体験に強化された恐怖
というわけで、日本人形というのは、世間一般でも「愛玩」と共に「恐怖」のイメージがありますが、私個人の中では「恐怖」のアイテムになっているのです。
表題作の他も素晴らしく、人間の業や深い愛が描かれておりますので、ぜひ読んでいただきたい作品です。