本日は京極夏彦さんの「今昔百鬼拾遺」合本の「月」から、掲載二つ目の「河童」について語りたいと思います。
前にも書きましたが「鬼」「河童」「天狗」は「今昔百鬼拾遺シリーズ」なのですが、それぞれ出版社がことなるんですね。そして「月」はその三冊が講談社から合本として出されたものです。
シリーズ最初の物語「鬼」についてはこちらで語ってます。
続く「河童」も美由紀と敦子が中心の物語になっています。
「百鬼夜行シリーズ」からは探偵の益田が出てますね。いっそう軽薄になってました。
そしてKADOKAWAの装丁もお面を付けた女学生さんですね。
今回は「河童」に相応しく水辺に佇んでおります。夏のお話なので制服も夏服なのが可愛い。
あらすじ
昭和29年の夏。浅草を中心に成年男子を狙った「覗き魔」が横行していた。
複雑に蛇行する夷隅川では、次々と「尻」を出した水死体が浮かぶという奇妙な事件が起きていた。
「稀譚月報」記者の中禅寺敦子は、薔薇十字探偵社の益田から調査中だという「模造宝石事件」について相談を受ける。話が進むうちに、夷隅川の水死体が「模造宝石事件」に関連があるらしいと判明。そんな中、3つ目の水死体が発見される。
現場に駆け付けた敦子が見たのは、第一発見者の女学生、呉美由紀、妖怪研究家の多々良勝五郎だった。
覗き魔、「模造宝石事件」3つの水死体。複雑に流れる夷隅川のごとく、いくつもの謎が一つの源流に集まる。
それぞれの「河童」
今作の「河童」ですが、終始「下品だ」と言われつづけてます。
河童って下品なのですかね。下品といえばそうなのかな。
前の「鬼」についての投稿で「鬼」「河童」「天狗」は別格なのか…的な事を書きまして、その後、検索したら日本三大妖怪に「鬼」「河童」「天狗」が載ってたんですね。
うううん。ちょっと…そこに「河童」はいりますか??という気がしないでもない。けれども妖怪水系代表と言ったら「河童」だよなぁ、となりますし。
「鬼」と「天狗」に比べたら、神格化は落ちる(ごめんね河童)気がします。
「河童」と言えば、お尻の穴から内臓を吸うとか、水辺で遊ぶ子供を流れに引き込むとか、悪戯にしては恐い事をする妖怪が思い起こされます。本書によると「河童」は義理堅い面もあれば、相撲を取るなどと愛らしいところもあるらしいです。いろんな「河童」がいるんですね。
事件はシンプル
事件は至ってシンプルです。シンプルなんだけど全容が見えてないので混迷してる上に、益田が腰を折り、多々良という学者が引っ掻き回すので、余計に混乱してしまうのです。
益田と多々良は道化役っぽいので、あれやこれやと事態をとっちらかしつつも、ぽろっと真相に近づいたりして油断できませんね。
益田は「絡新婦の理」で美由紀と面識があります。この頃は刑事でしたね。
そのせいか「絡新婦の理」の時は、もうちょっと頼れる雰囲気がありました。
今回は軽薄度が増しています。
多々良先生は「今昔続百鬼」の主人公なんですね。こちらはまだ未読です。
コメディタッチらしいですが、多々良の破天荒ぶりに付いて行くのは大変そうです。
下品な「河童」
「河童」は各章「下品」「品が無い」の意で始まります。
開幕は美由紀と学友のお嬢様たちの「河童談義」から始まります。
巷で起きてる「覗き魔」事件がいよいよ学内でも起きたことに興奮し、「お尻を覗く」→「お尻を触るのは河童」という流れで、それぞれの出身地の河童伝説で盛り上がります。
この女学生たちの河童談義に、全てが詰まっているという京極さんらしい展開です。
流し読みできない会話なんですね。
敦子と益田の「模造宝石事件」の会話は、なにが謀をしている男たちの話が中心ですが、より生活に密着した「河童」が感じられます。
ここまでは「河童」は庶民的な存在なのですが、多々良が登場すると、どうも「下品」な妖怪というばかりでなく、ちょと恐いというか、神聖な存在だということが見えてきます(これもお嬢様が語ってましたが)
伝承の「河童」について語られた後に「模造宝石事件」「夷隅川水死事件」に絡む現実の「河童」が浮かび上がるーという展開になっていて、本シリーズよりも軽めですが、蘊蓄と伏線の回収は読みごたえがあります。
最終章、「憑き物落とし」をしたのは今回も美由紀です。
京極堂の「言葉」を駆使した「憑き物落とし」も良いですが。美由紀の感情爆発は「よくぞいった!」とスッキリさせてくれますね。
この時「絡新婦の理」の事件にちょこっと触れるのですが、辛い思いをしたろうに…。いい子なんですね美由紀は。
「絡新婦の理」もややこしい事件です。とりあえずどんな話か知りたい場合は、志水さんの漫画が読みやすいと思われます。
美由紀が今の学校に入学できるよう、世話をしてくれた人物がいるのですが、「河童」での美由紀のその人の評が…笑えます。「自分は語彙は少ない」と言ってますが、見る目は確かだよ美由紀ちゃん!
犯人は「河童」
そもそもの始まりは、七年前に起きた「宝石の絡む謀」です。事件化はされていないのですが、確かに犯罪が行われました。その「謀」の犯人は「河童」でした。作中でも「河童」を連想する設定がされています。単純に名前や呼び名だったり、「河童」の性質や伝承を付与されていたりします。
「河童」を読み終え、再び第一章のお嬢様たちの会話を読むと、ああ、最初にこんなに開示されてたんだな…と、さすが京極夏彦さんだなぁ、と感心してしまいました。
私の「河童」は「水辺に近づく者に仇をなす恐ろしい水の怪」なので、「宝石の絡む謀」に加担した人たちよりも、「河童」と思えるのは、実際には軽微な罪でしか裁きようのない「彼」なのかもしれないです。
でも、いつかまたこの本を読んだ時、「河童」は誰か別の人だと思うのかもしれません。